冬春夏秋そして冬~少年の気づき

老夫婦が 雪の朝 玄関口に出てみると
雪が きれいに寄せられていた
寒さの中 こころが暖まった
数日後の夜 雪が降っていた
もしかしてと 朝早めに起きて 玄関をあけると
一人の少年が 黙々と雪寄せをしていた
おはようございますという 挨拶も心地よかった
ご苦労様と お礼をいうと 照れくさそうに笑った

小学校に 電話がかかってきた
子どもの担任が 代わった
「雪の積もった日は 毎朝雪寄せをしてもらったんです」
子どもへの感謝と
こんな子がいることを きっと先生は知らないだろうと 教えてくれた
校長に 話した
小さな善意を 続けることの大切さと
それを寒い朝 早起きして実行した子を
校長は 全校朝会で 嬉しそうにして 褒めた
級友たちから 拍手が起こった
また 照れくさそうに笑った

畑仕事が 好きだった老夫婦
今春は もう耕すことも億劫(おっくう)になっていた
少年は臆面(おくめん)もなく 小さな畑をスコップで耕した
いつも野菜を お裾分けしてもらった お礼だった
今年も 畑仕事できることを 素直に喜んだ

畑には いろいろな野菜や枝豆 芋が 次々と花を咲かせた
蜜を吸いに 蜂たちも 集まってくる
いつもの夏と 変わらない 農作業 
それが嬉しい
ニンニクは 春一番に芽を出し 長い葉を幾重(いくえ)にも広げた
その葉の間から芽が出て 長く茎が伸び巻き始る
それを切らねば 球根が育たない
ニンニクの茎は 年寄りには やさしい香りで 美味しくいただく
芋の茎が 枯れ出した
収穫の時を 告げる
最初のお裾分け 裏の少年の家に届けた

畑仕事も ひと段落を迎えた
少年は その畑の後始末に 半日かかった
さらに半日 畑をまたスコップで起こした
来春 夫婦で畑仕事する楽しみが 続く
ありがたいと 感謝した

雪が ちらついてきた
今冬 初めて積もりそうな 雪だった
翌朝少年は 朝起きをして きっとくるだろう
そんな期待を してしまうほど
少年の無垢な心と 無償の好意に 救われている
少年は 春がくると 小学校を卒業する
心をこめて 祝ってあげよう
喜んでもらえるには どうしよう
老夫婦の 嬉しくも楽しい悩みが ひと冬続く

〔2019年8月15日。少年は青少年赤十字(JRC)の一員だった。実話を元にアレンジした。その思いやりと行動は本物だった。ボランティア学習は、気づくことから始まることを心底教えられたエピソードである〕